

今回は、日本映画撮影監督協会(J.S.C.)青年部会員であり、 CPメンバーでもある女性キャメラマン大沢佳子さんにお話をうかがいます。

■このインタビュー前に、大沢さんの映像の評判をよく耳にしました。
その評価が高い理由として、「大沢さんはずっと田村まさきキャメラマンの助手だったから」と言うのです。
大沢さんの師匠にあたる田村まさき氏について教えてください。
作品を深く捉えて、包容力のある画を撮る人ですね。
空気感のある画を撮る。土地の匂いがしてきそうな。
シャキッとしない画で、ぼやかすことで人に想像させる画を撮るのです。
それはいろいろな手を使ってるのですが・・・。
被写界深度を浅くしたり、シャープさに欠ける高感度フィルムを多用したり。
昼間のシーンにも使うのでNDフィルター入れまくり、ファインダーは真っ暗。(笑)
ローコントラスト フィルターを入れるのも好きですね。
グラスフィルターを何枚も重ねるので、これでまたレンズのシャープネスが失われたり、
フレアーをひろいがちになってどんどん淡い感じになってくる。
そうすると肉眼で見ている世界とは違うトーンの映像が生まれてくるのです。
光と会話をする人ですね。

■大沢さんが撮影したnido※のPV映像を見ました。カッコイイですね。
まさに"土地の匂いがするような、空気感がある″映像だと思います。
きっとそれは、私自身、田村さんの影響をうけているからですね。
この撮影は、好きなように撮らせてくれて、とても気に入っている作品です。
(※nido・・・Dragon Ashの降谷 建志氏、スケボーキングの上杉俊祐氏、 映像作家の吉川寛氏、俳優の武田真治氏から成るバンド形式のプロジェクト。)

■田村まさきさんとの出会いは?
24歳の時です。
土壁で映画館を作って小川プロの『1000年刻みの日時計』(田村氏撮影)をひと夏上映しようというという企画がありました。
それを手伝っていたら、田村さんがその映画館を16mmで記録撮影するためやって来たのです。
その時の私はフィルムを詰められるくらいはなっていましたので「お手伝いさせてください!」と言ってみました。
そして急遽、「じゃあ、よろしく!」ということになった。
それが、出会いですね。
田村さんの映像は、前から好きでした。
本当に好きで、願い続ければ、人ってめぐり逢えるものなんだなと思います。

■その田村さんの助手を卒業する時が来ますね。
1999年「おもちゃ」という作品がきっかけです。
東映 京都撮影所で撮影が始まって1ヶ月が経った頃でした。
ストレスのせいか血便が出ましたね。
助手としてはベテランのはずだったのにだめだめでした。
私の助手としての役目は光を露出計で測って絞りを決めることでした。
田村さん独自の光の質があるのですが
これまでと違って、どれが求めている光なのか分からなかった。
京都の撮影所の体制に合わせているからです。
田村さんは自然光やそこにあるものから何かを見つけていくタイプだったのですが
京都では、全部作りこんでいく。
それが上手くいかず、どれが求めている光なのか分からない。
結果として画が悪くなっちゃうわけです。私は血便ですが田村さんは円形脱毛症になっちゃいました。
もう出来ないと思いましたね。
やっていることが一つも結実しない。
むしろ足をひっぱっていったことがいちばんつらかった。
本音を言うと、助手はもうこりごり(笑)
それで、誰も仕事をくれないけど、勝手に「キャメラマン宣言」しました(笑)

■2001年に 映画「ウォーターボーイズ」のカメラオペレーターをされていますね。
はい。撮影監督の長田勇市氏の指示でカメラを回しました。
■水中からあおりで撮った水中映像が、とてもきれいですが、この水中映像も?
そうです。そのためにダイビングのライセンスも取りました。
結局、レンタル器材に穴が開いていて使い物にならず、素潜りで撮ることになったのですが。
この映画は予算が少なくて撮影機材は最低限のものしか借りられず、
水中撮影では、モニターなし、対象物をファインダーから覗くこともできないという状態でした。
けれども登場する男の子たちはじっくりとシンクロの練習を重ねて、どう撮られてもOKという状態を作ってくれたのです。
それは撮影側にとってはとても贅沢なことでしたね。

■パナソニックのカメラについて感想は?
DVX100シリーズは、トーン、色やエッジの出方が柔らかい。
フィルムっぽくて好きです。
映画フィルムと同じ24P(24コマ/秒)を追求していたのがこのカメラで、
どんどん柔らかさが進化していますね。
そして先日、P2メモリカード式 AG-HVX200を使い、水族館でクラゲを撮りました。
オーバークランク撮影の滑らかなスローモーション機能を最大限利用して
クラゲの光が透過しているようで反射しているような微妙な様子を表現できました。
これは音楽PVで、4曲分のクラゲ癒し映像です。降谷 建志さんの曲にのせてクラゲがゆらゆら。
まだ詳細は未定なのですが、6月にビクターからDVD発売される予定です。

■女性カメラマンで良かったことは?
あるある。(笑)
なんだかんだ言ってみんなやさしい。
その一方で油断すると甘やかされるっていう面はあります。
だから必要以上に「手伝わんといてくれ!」ってけんか腰で言っちゃったり。肩肘張っていたところもありますね。
最初はみんな「女が撮影なんて」と笑って相手にしてくれませんでした。そういう時代だった。
でも一流の人は田村さんも含め、最初から相手にしてくれました。
おもしろいおもしろいって使ってくれた。
女性の感性が自分にも欲しいって言っている人達でした。人に対するものが貪欲なのかな。
体力的なハンディは、あまり意識はしていません。
先日、日本武道館で純音楽家エンケンのライブ撮影があったのですが
ずっと手持ちで寄りを撮っていましたが、かなりOKでした。
1時間くらいだったらもちますね。ただし撮る対象が素敵な場合にかぎる(笑)
体力づくりにランニングや、ストレッチはするようにしています

■後に続く、女性カメラマンにひとこと
好きなことは、続けてください。
私も最初は笑われるだけの存在でした。
田村さんに会えたのもその一つで、思い続けていればかなっていくものです。

■9月から1年間イギリスに行きが決まったとのこと、おめでとうございます。
文化庁主催の新進芸術家海外留学制度に応募して受かりました。
今回の研究テーマのひとつに「16mmフィルムをもっと継承したい」という思いがあります。
ヨーロッパでは今、デジタルインターメディエイト(DI)※の登場で16mm フィルムが見直されているのですが
日本では現像所が現像をやめたりして絶滅寸前です。
nidoの撮影は16mmで撮ったのですが、フィルムの持つ色、諧調の表現力はすごい。
DIを介せば合成もうまくいくし、35mmにもひけをとらない美しさです。
現場はコンパクトでありたいと思っているので
それが可能な16ミリをどうにか存続させたいという強い思いがあります。
※デジタルインターメディエイト・・・近年、 ハリウッドで主流になってきた最新の映画制作手法。
フィルムの持つ情報量を劣化させることなくデジタルデータ化が可能。

■めざす映像は?
最終的には、映画です。
映画ってある種、ドキュメンタリーだと思うのです。
特に役者さんがいい時。
映画撮影の現場は、なんらドキュメンタリーに代わりがない。
物語として片付けられない、とてつもないことが起こっているのを感じる時があります。
いろいろな反応があって、それをちょっと切り取れたら、それが奇跡。
そんなものに虜になっている自分がいますね。

【インタビューを終えて】
このインタビューの後、偶然にも2泊3日の撮影に同行する機会に恵まれ、大沢氏の撮影スタイルを、近くで見ることができました。
イベント記録なのに、映画のような画を作り込むのを目のあたりにし、ため息が出るほどでした。
同行してみて、良くわかったのです。
大沢キャメラマンの映像が一様にして評価が高い理由。
映像業界ではハンディとなる女性が、ここまで登りつめるには男性以上の努力と、プロ意識とセンスがないとたどり着けないということ。
現場での大沢カメラマンは厳しく、撮影に対するプロの姿勢が全身に現れているのを感じました。
女性カメラマンのロールモデルとなる大沢佳子氏に、今後も大いに期待します。
聞き手/文 :水中ビデオ女
■撮影 大沢佳子(おおさわ よしこ)氏 プロフィール
大阪府寝屋川市出身。
関西学院大学卒業後1988年より、フリー撮影助手として映画・TVCF、PR映画で活動。
平野力氏、田村正毅氏、長田勇市氏らに師事。
2003年独立。現在フリー映画キャメラマン。
主な作品
『萌の朱雀』(監督 河瀬直美)
『蛇の道』『蜘蛛の瞳』(監督 黒澤清)
『式日』(監督 庵野秀明)
『ウォーターボーイズ』(監督 矢口史靖)
などに参加





